Bad Status






目の前に走ったのは、閃光。



暗転する視界。どこか他人事の感覚。
平衡感覚が失われる世界。いや、それは私なのか。
鈍く響いた、重量が崩れ落ちた音。
遅れてやってきたのは、痛みと叫び、そして足音だった。


!」


霞む目を必死に堪える。だめだ。

抗えない。

ふわりと浮いた身体は、現実か、幻覚か。それすら確かめられないまま、
私の意識は砂嵐から無へと変わった。










次に訪れたのは、曙光。


夢うつつの中で覚えた、ふわりと包まれたように浮いた感覚は、まだ続いていた。
誘われるように目蓋を持ち上げ、朧気に視線を彷徨わせる。
白い世界の中、ぼやけた輪郭がこちらを覗き込んでいた。


、しっかりしろ


上から降り注ぐ言葉。それが自分の名前だとはっきり意識するまでに、多少の時間を要した。

でも、これは。

この声は、確かに私の中にしっかりと存在している。

…会いたい。

…触れたい。

それは強く欲求となって、私の意識を急速に上へ上へと押し上げていった。




「な、る…かみ、くん…?」
「気がついたか?」


背中を支えられ、上半身だけを起こしたような体勢。
軽く抱きしめられているような感覚に、心地良さを感じる。
安堵の表情を浮かべ、肩の力を抜く鳴上君に、私は先程の欲求を再び思い出す。
触れたい、触れたい、触れたい。力の入らない腕を必死に伸ばそうとする。
あぁ、でも、上手く動かせない。
なんて、もどかしい。


「シャドウはもう片付けたよ」
「ったく、心配したんだぜー?お前、すっころんでた所狙われたんだよ。覚えてるか?」


鳴上君の少し後ろから彼ごしに覗き込んできた花村君に、私は唯一自由に動く視線を向ける。
霧が晴れていくように、私の記憶も少しずつはっきりしてきていた。
そうだ、弱点を付かれて転んでしまって、その後…狙われてしまったんだ。


「うん…ごめんね、迷惑かけちゃった」
「礼なんていーよ。無事シャドウも倒したんだしな。ついでに、リカームしたのは天城だし」


そう言って笑いながら自分の背後を親指で指す花村君。
その方向には、最後の1匹になったシャドウを倒し終えたらしい千枝と雪子がいた。


「ほーんとほんと。花村なんて何にも役に立ってなかったから!礼なんていらないよー
「うっせ!ガル属性効かない敵だったんだからしょーがねーだろ!」
ちゃん、大丈夫?身体、痛くない?」


心配そうに声をかけてくれる雪子に、私は微笑んで一言、大丈夫、と答えた。


「ありがと…皆。次は気をつけるね」
「おう、立てそうなら先すすもーぜ。まだまだ奥は続いてそうだしな」


そう言って前を向く花村君の言葉を切欠に、私は鳴上君の方へと視線を戻した。


「鳴上君も、ありがとう。今度は足手まといにならないように、するか…らっ!?」


急激に上昇する私の全身は、まだ横たわったままだ。
先程よりもより背中に感じる、鳴上君の腕。
密着、といってもいい程に感じる、鳴上君の体温。
反対の腕は膝裏から私の下半身を支えたまま立ち上がって…


つまり、これは。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って…っ」


・・・お姫様抱っこ、というものでは。
そう脳が納得した瞬間、体中の血液が沸騰したかのように騒ぎ出す。


「なんで?」


そんな彼は、至って冷静だ。
決して太いほうではない、その腕や身体のどこにそんな力があったのか、人一人抱えたまま
軽々と仲間達が待っている方向へ歩き出す鳴上君に、私は慌てて制止の声をかける。


「いや、何でって・・・だって、これは」
、まだ上手く歩けないみたいだし」
「でっ、でも…っ」


確かに、自分の中にあった正直な欲求だ。
触れたい。触れたい。触れたい。…でも。


「さすがに、これは恥ずかしいよ…」


なんとか降ろしてもらおうともがく私。
皆に見られる前に、降りてしまいたい。
大分まともに動かせるようになってきた四肢を必死に伸ばしたのだが。


「だめだよ」


逆に抱き抱えられた腕に力を込められた。
より密着する身体。


鳴上君の体温…思ったより高いかも。温かい。気持ち良い。


そんな事をふと考えてしまう私も、本心では降りたくないのかもしれない。


「いいからじっとしていて」


顔を近づけられ、耳元でそう囁かれれば、もう為す術はなかった。
そのまま少し前を行く花村君へと近づいていく。


「お、来たか…って、おい!」


私達の気配に気づいて振り返った花村君の顔には驚愕が。


「おいおいリーダー…正気か?」
「いたって正気だが?」


呆れたように問う花村君に、堂々と答える鳴上君。
私はといえば…視線すら、花村君には向けられない。
少しの沈黙。じりじりとした空気が、私にはなんとも居心地の悪さを感じさせた。


「ま、いっけどよ。…先行くからな!」


そういって小走りに前を行く千枝と雪子の下へ合流していってしまった。


「ほ、ほら・・・ね?やっぱり恥ずかしいよ」


花村君のリアクションが全てを物語っている気がする。
おずおずと見上げれば、鳴上君の自信たっぷりの笑み。


「恥ずかしくなんかないよ」


いつだって、彼は自信に満ち溢れている。
彼の中から溢れ出る光に、私はいつのまにか引き寄せられたのだろうか。


「だって、は俺のだし」


そう言って、上を見上げ露になった私のおでこに、軽く口付ける。


あぁ、その微笑みは、私の心に重大なバッドステータスを引き起こす。




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アニメ見て番長萌えが暴走し、勢いだけで書いた。反省はしてい…る。
番長には動じない男でいてほしい願望です。

うちの話に出てくるヒロインは、基本逆ハーレム状態になる予感。
陽介も本当はヒロインの事介抱したかったんです。
番長に先越されちゃってるけど。

2011/11/15